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週刊文春 2011年1月27日号 より フィリピン 幻想の熱帯
ホタルの木 暗闇に浮かびあがる1本の木 ふわふわと瞬く無数の緑光に包まれた幻想的な姿はまるで天然のクリスマスツリーのようだった。
撮影 海野和男 取材、文 寺田直子 ・・吸い寄せられるようにホタルが集まったヤシの木。すぐ下に民家がありバイクが行き交う。・・ 「火の島」で見る星空とホタルの饗宴 なんとも幻想的な光景だった。熱帯の夜に浮かび上がる1本の木。そこに群がるのはホタル。何百か何千か。数えきれないほどのホタルが電飾のようにまたたきながら、音もなくゆらぎ、浮遊している。 フィリピンのシキホール島。かってスペインの植民地時代、この島を見たスペイン人は、夜になると島がうっすらと輝いてみえることから「イスラ・デル・フエゴ(火の島)と呼んだ。その理由こそがこのホタル。今でこそ数は少なくなったが、1年中、驚くほどの個体数で集まり、闇夜を照らしている。 不思議なのは、特定の木にのみ群がることだ。ユーカリやヤシの木、地元でモラヴェと呼ばれる樹木など種類は限定されていないが、まさに「ホタルの木」のごとく1本の木が選ばれる。 ホタルが発光するのはメスがオスをおびきよせて交尾するためといわれている。オスがより強く光りながらせわしなく飛び交い、メスはそれよりも弱い光を放ちつつ、オスが来るのを待つように優雅にまたたく。特定の木に集まるのは、より多くの交尾のチャンスを得るためだと思われている。まさに、ホタルの婚活だ。しかも日本のホタルのように淡く発光するのではなく、数メートル離れた先からでも肉眼ではっきりと見えるほど明るく輝き続けるのがシキホール島のホタルの特徴。自然写真家の海野和男氏も「この種類のホタルをこれほど写真に撮りやすく、また、見やすい場所は世界的にも貴重」と言う。
日本人経営のロッジ「ヴィラマーマリン」では島で唯一、ホタル鑑賞ツアーを行っている。オーナーの原田淑人氏は「ホタルが集まる木を精霊が宿る木と呼んでいます。これからも島の自然を守り、再び火の島、ホタルの島と呼ばれるようになることを願っています。」 日没から数時間後、ホタルの発光は最高潮となる。上空にはこれもまた無数のきらめく星空。温かみをおびたホタルの光と、硬質な星の輝きがシンクロする光の饗宴は時空を超え、途切れることなく続く。 ・・・「ホタルの木」は成虫の寿命にあわせ一定期間で自然消滅。その後、場所を変えて別の木に群がりだす。・・・
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